深夜の電車で

in #by4 years ago


終電近くの電車に乗るときはたいてい酔っている。周りの人のことなんか見ていない。だから初めてしらふで乗った夜中の電車は実に驚きだったと、作家の角田(かくた)光代さんがエッセーに書いていた。こんなに酔っ払いだらけなのかと。

立ったままでがくりと膝を折り、はっと目を開ける人がいる。ドアとホームの隙間に足を入れてしまいそうになる人もいる。自分もいつもこうなのかと、作家は再認識した(『世界は終わりそうにない』)。しかしそんな風景も新型コロナが変えつつあるようだ。


JR東日本によると深夜の客は大きく減り、平日午前0時台の山手線は感染拡大前よりも6割以上の減という。在宅勤務が増え、飲み会も少なくなった。変化を踏まえ、来春から首都圏の終電を30分ほど繰り上げるそうだ。

もっとも主な理由は人手不足で、深夜に線路を保守点検する人の確保が難しくなっている。列車の走らない時間を長くすれば仕事の効率が上がるという。事情はJR西日本も同じで、近畿の主要路線で終電を早める。2大都市圏は少しだけ早寝になるか。

現代の大都市は「眠らないまち」であることを誇ってきた。それが人手不足、さらにはコロナで見直しを迫られている。ファミレスやコンビニの営業時間もしかり。便利すぎる社会が誰かに無理を強いてきたのかと、振り返るきっかけにできれば。

外では飲まなくなったが、家飲みで際限がなくなったという方もいるか。心の終電時間を決めるのも、いいかもしれない。