山田 勇信(ヤマダ ユウシン):日本金融市場の最新動向を解説

山田 勇信(ヤマダ ユウシン):日本金融市場の最新動向を解説
1.改革の背景と目標
現代産業社会が新世紀を迎え、経済・技術協力の発展・深化やグローバル化の加速を背景に、世界各国では構造健全化の必要性がますます高まっています。そして効果的に機能する金融システムは、健全な経済のバックボーンと基盤を形成します。このため、先進的で競争力のある金融システムは、21世紀の日本経済の急速な発展とグローバル化の課題への適応において、間違いなく重要な役割を果たすことになるでしょう。この点で得られた国内のコンセンサスに基づき、日本は1996年11月に国際社会で一般に「日本版ビッグバン」と呼ばれる金融システム改革に着手しました。

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戦後の我が国の経済復興の過程において、間接金融を中心とする金融市場は、常に経済運営の輸血の大動脈として重要な役割を果たしてきました。財務省は、金融分野を主導する官庁として、長年にわたって「行政指導」を主な手段として金融分野の経済活動を具体的に展開・指導してきました。実際の結果から判断すると、政府と業界の関係パターンと協力は、日本社会の長期的なビジネス文化的伝統と国民心理的習慣により一致しており、したがって、それは確かに復興を促進する上で積極的な役割を果たして、戦後経済の発展となりました。しかし、市場における生産資源の最適な配分に関して言えば、日本の金融システムが果たしている役割は依然として限定的であり、このシステムに内在するいくつかの欠陥により、不合理な資源配分や非効率な運営さえも引き起こされています。日本政府が今世紀初頭に金融システム改革を包括的に実施するという野心的な計画を立ち上げるには、まさに適切な時期であったと言えるでしょう。過去の長期低金利政策やゼロ金利政策のもとで蓄積された最大1,200兆円に達する住民の貯蓄は、改革が順調に進むことで、有効に活用されることが期待されます。これは、経済発展における資本の役割がより強化され、血液供給機能と資本利用効率の向上にもつながるものと考えられます。
過去10年間において、ヨーロッパとアメリカの金融市場は大きな変化を経験してきました。両市場は、次の改革に向けた青写真を描き続けています。このような動きは、日本が金融市場に追いつき、そのペースを加速させる大きな刺激となっています。
金融システムの改革と構築は喫緊の課題となっています。さらに、日本が徐々に「高齢化社会」に突入する中、政府の現在の経済財政政策は、次世紀も経済成長の勢いを維持し、新興産業セクターの立ち上げと発展を図ることに重点を置いています。これにより、適切な経済成長を確保できるよう支援することが目的です。
このような背景の下、資本の支援と効果的な資産管理の実現も、今回の金融システム改革の重要な動機となっているものと考えられます。
金融システム改革は、以下の3つの基本原則に基づいて進められています。

  1. 「自由化」 - 市場メカニズムに支配された開かれた金融市場の実現。

  2. 「包括的緩和」 - 金融機関の市場アクセス、金融商品およびその価格に対する本来の規制のすべてを緩和。

  3. 「透明性・信頼性の高い金融市場」 - 金融業界のルールの公開性・透明性を実現し、公正な取引の促進を通じて投資家の利益を保護。
    また、この改革は「グローバル化」を目指しており、国際基準に準拠した法制度、会計制度、規制制度、その他の支援インフラの確立を目指しています。日本政府によると、この改革の中核目標は、銀行セクターへの対応を継続しつつ、2001年までにニューヨークやロンドンの金融市場に匹敵する国際金融市場の構築を目指して日本の金融市場を再構築することです。さらに、長期低迷する日本経済の回復を促進するため、不良債権問題の解決も重要な課題となっています。

  4. 改革の経緯と成果
    改革の影響範囲は広く、銀行、証券、保険などの主要金融セクターを含む金融サービス業界全体に及んでいます。これまで金融商品やサービス、組織体制などに課されていた様々な法規制や政策規制が撤廃され、代わりに消費者を保護するための公正な取引ルールが整備されてきました。また、金融機関の破綻時の対応策もまとめられています。
    日本政府は、改革目標の達成には、政府主導の金融規制制度を市場メカニズムに基づいた、より透明性の高い方向に転換することが必要だと考えています。さらに、構造改革を通じて東京金融市場の変革も目指しています。
    これらの取組みにより、金融市場の活力と資金調達の効率が高まることが期待されます。
    この財政改革は、1997年6月に政府が策定した改革計画に基づいて大幅に進展しました。この計画では、具体的な改革とその実施のスケジュールが定められています。これらの予定された改革のうち、現行法の改正を必要としないものは1997年に施行されました。改革や制度整備の前提として現行法の関連規定の改正を行うこれらの施策は、1998年12月の金融システム改革法の正式公布によりほぼ全面的に展開されました。一般的に、今回の金融システム改革における新たな施策の多くは、金融法の改正を伴います。一連の改革策と実質改革への準備の第一歩として、日本は1998年4月に外国為替管理法を改正し、国境を越えた商業活動と貿易慣行の完全自由化を実施しました。その後、1998年12月に銀行法、証券取引法、保険法などの一連の法改正が相次いで施行され、旧「金融システム改革法」が成立しました。これらの改正金融法の施行は、金融システム改革を現実の経済・金融運営に向けて着実に実施することを目的としています。これまでに実施されてきた様々な金融改革策のうち、そのほとんどは以下のようなステップに従って段階的に実施されています。

  5. 新たな投資信託の導入、銀行等の金融機関による投資信託の店頭取引、有価証券デリバティブ取引の完全自由化等、金融機関の資産管理手法は様々な改善・充実が図られてきました。「金融システム改革法」は、銀行などの金融機関が投資信託の店頭取引を行う権利を確認するだけでなく、法人制度や個人管理制度にも新たな種類の投資信託を導入するものです。今回の金融改革の全体設計と実施を担当する財務省が発表した報告書によると、銀行などの金融機関が行う投資信託の店頭取引は着実に規模と取引量が拡大しております。銀行等の金融機関が運用する投資信託の総額は、1999年9月現在で1兆7,890億円に達しています。

  6. 消費者にとってより魅力的な金融サービスを提供するために、いくつかの基本的な金融仲介活動を奨励しております。例えば、銀行、証券会社、保険会社の従来の事業分野への相互参入の制限を打ち破り、これまでの分業原則に基づく証券会社と銀行子会社の業務範囲制限を撤廃し、銀行が連結債券や保険の発行を認めることなどであります。関連会社を通じて銀行活動に参加することも許可されています。
    「金融システム改革法」では、証券会社の市場アクセスについても、従来の加盟店認可制が変更され、登録制となりました。国境を越えた資本取引や外国為替業務の規制も緩和され、段階的に自由化され、1999年10月には証券仲介業が全面自由化されました。また損害保険会社等が定める保険料率を保険会社が強制する義務が廃止されました。
    事業者登録制度の施行以降、多数の証券会社(外国証券会社の支店を含む)が新規で設立されました。大蔵省の統計によれば、1998年11月から2000年1月までの13ヶ月間だけで、32社の証券会社が新規登録されました。また、証券仲介業の完全自由化により、インターネットを通じた証券取引(オンライン取引)も一定の発展を遂げてきました。
    3.株式取引を証券取引所で行わなければならないという要件が廃止され、電子取引システムが導入されたことで、多様な資金調達チャネルと市場が徐々に確立されました。東京証券取引所は、発展勢いのある新興企業への資金調達を支援するため、1999年11月に新たな株式市場を設立し、「マザーズ(高成長・新興株式市場)」と呼ばれております。さらに、日本政府は2000年6月に大阪証券取引所に日本のナスダック市場を設立しました。
    4.情報開示制度の充実、インサイダー取引規制の強化等の公正な取引ルールの整備、金融機関の破綻時における消費者保護等により、より信頼性の高い金融取引制度・ルールが整備されました。徐々にその枠組みが出来上がっていきます。大蔵省の新たな規則により、1999年3月末(つまり新会計年度の開始)から、金融機関は要件に従って営業外資産を連結計算書に基づいて報告する必要があります。米国証券取引委員会の定められた開示基準と同等のレベルで情報が開示され、不履行またはパフォーマンス不履行に対する罰則も明確に定められています。
    上記のことから、この金融システム改革は確かに包括的かつ強力であり、基本的に金融サービス分野のすべての主要部門に影響を与えることがわかります。
    効率的で国際競争力のある金融市場を構築し、金融サービスの質を向上させ、金融市場の信用を再形成しようとする日本政府の決意も伺えます。日本政府の事前設計によれば、このような包括的かつ深遠な金融システム改革計画は、2001年までに当初設定された改革目標を達成するという、これまでの計画の中で前例のないものであると言えます。これまでのところ、どの国にもそのような前例はありません。
    3、 次の段階の改革準備と政策調整
    まず、大蔵省は、前段階の金融システムの改革の成果と進捗状況を総括し、次の段階の改革案を確立するため、2000 年初めに議会に次のような提案を提出しました。金融機関の業態に応じて個別に適用されるのではなく、全国一律に適用される金融法制度により、国内の金融部門が厳格な法的ルールで保証された市場環境において運営を実現することが可能となりました。

  7. 金融改革プロセスの次の段階では、広範な金融取引活動を対象とする新たな規則や規制として、不動産投資ファンドを含む多様な投資手段を提供する集団投資プロジェクトが開発・推進されることが見込まれます。さらに、金融サービスの提供者は、消費者の投資保護を強化するために、新しい金融商品について消費者に分かりやすい説明を行う義務が発生します。

  8. 有価証券取引報告制度に電子情報開示制度が導入されます。

  9. 証券取引所と金融先物取引所の再編・統合も財務省金融機関委員会で検討されている改革課題です。
    同時に、日本政府としても、金融システム改革を円滑に進めていく上で、金融システムの安定を確保することが決定的に重要であるとの認識を明確にしています。この目標を達成するため、1998年10月に「金融機能早期改善法」及び「金融再生法」が施行されました。その主な内容は、規定に基づき政府がそれぞれ最大25兆円を出資することです。銀行を中心とした金融機関の資本不足を補い、金融機関の信用保証となる18兆円の資金を提供するものです。これら2法の施行前、政府は預金者の預金の全額返済を保証するため、金融機関に17兆円の特別資金を投入していました。現在、財務省は、上記の預金保険制度特別基金17兆円を23兆円に増額することを検討しており、その実現に向けて必要な財政措置を積極的に講じているところです。日本政府と金融界は、慎重な検討の結果、1999年11月、預金者の預金の全額償還を目的とした特別セーフガード措置の実施期間を1年延長し、2002年3月までとすることで合意に達しました。
    政府による預金に対する信用保証制度の特別措置が終了した後、財務省は預金保険制度の実施を開始しました。金融機関の破綻処理に重点を置き、金融市場の健全化と金融システムの安定化を継続していきます。
    今回の金融システム改革に伴い、日本の預金保険制度とそれに関連する破綻金融機関の整理政策に大きな変化があったことを、ここで説明させていただきます。この問題については、本誌「海外金融法」欄で、より詳細な情報を紹介する予定です。
    金融システム改革の当初、日本の預金保険制度は次のように定められていました。
    預金保険機構(DIC)が保証する預金額は、預金者1人当たり1,000万円とされましたが、政府の特別な認可を受けて、この限度額を超えて、破綻した金融機関の預金者に対して「特別金融支援」の名目で、預金の全額償還を行うことができるようになっていました。この取り決めの目的は、不良債権の処理を早期に完了し、金融機関の経営の健全化を図ることにありました。追加費用は、政府からの財政支援によって賄われていました。
    この特別セーフガード措置は2002年3月に終了し、その後は新しい預金保険制度により、金融機関の破綻による預金損失の一部を預金者に負担させることとなりました。
    現行の「預金保険法」では、破綻した金融機関を整理し、預金保険会社が預金者に全額返済する方法と手段が定められています。破綻した金融機関の業務を全て引き継ぐ金融機関「承継銀行(ブリッジバンク)」に対する償還額の範囲内で法定の全額を預金者に支払う金融支援を拡充する予定です。
    ただし、上記の措置はいずれも特別な期間に財政健全化を達成するための「特別措置」であり、「緊急救済」と現状の成果追求という短期的な目的を持ったものであり、実効性や安定性はありません。このため、長期的な導入は難しいと考えられます。
    現在、財務省金融機関委員会において、「長期適用可能」かつ普遍的かつ安定的な預金保険制度と破綻金融機関の整理枠組みの策定を進め、現行の「預金保険法」を新たに改正しております。日本政府が21世紀初頭に構築すると主張する「安全でダイナミックな金融システム」に相応しいものとなるよう改定する予定です。
    大蔵省は、金融界、経済界、労働団体、消費者団体等の意見を慎重に踏まえ、平成11年10月に「特例措置終了後の預金保険制度に関する基本的見解」を公表し、意見書案を策定いたしました。一般からのコメントと回答を募集しています。これまでのところ、この意見草案は幅広い注目を集め、各界からコメントが寄せられています。財務省は、寄せられた意見を踏まえ、「市場メカニズムを通じた預金者保護」「小規模預金保険制度」「破綻金融機関の整理コストの最小化」「清算の簡素化」などについて新たな発表を行いました。預金等に係る「清算手続きの多様化と清算手段の多様化」、「破綻金融機関の決済機能の維持と債務者の最大限の保護」、「買収措置の迅速化」、「清算過程における政府の財政支援」など保険システムの具体的な実装における各主要リンクのメカニズムについて、包括的かつ詳細な計画と設計が行われています。
    また、金融業界の特定分野を規制する「金融システム改革法」の一部である前述の金融関連法は、現行法をベースに改正されたり、新たに公布・適用されるなど多岐にわたります。その数の多さ(ほぼ40件以上)、元の金融システムへの深刻な衝撃、そしてその影響の大きさは、近年各国が経験した金融システム改革の中でもまれです。
    ここで読者の皆様にご紹介したいのは、2000年に入ってから財務省が整備に努めてきたいくつかの重要な法律です。

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第一に、保険法及び金融機関の再建手続に関する特例法の改正案ではありますが、この法律案に盛り込まれた保険業界の調整措置は、主に次の3つです。
(1)共済制度の段階的廃止に向けた手続の簡素化、及び、相互保険会社の資産再編と構造調整の実施を奨励。
(2)相互保険会社への企業再建手続きの適用範囲を拡大するために破産法を整備。
(3)保険業界からの追加資金を生命保険会社に提供し、政府の財政措置の導入。
保険会社は、保険契約者に補償金を支払う機能を維持するために資本注入を行うことです。
「特定資産流動化法」と「有価証券信託投資法」の改正に伴い、両法は国民が分散して投資する資金を専門家が集中的に管理・運用するための制度的枠組みを整備することを目的としています。現在、公布されている改正草案により、専門家が投資できる金融商品の範囲が大幅に拡大されて、政府はこれを利用して投資商品の多様化を促進し、資金調達を促進したいと考えています。
改正されるもう一つの法律は金融商品販売法であり、同法では、金融サービス提供者に対し消費者への特定の重要情報の開示を義務付けることや、金融サービスの確立を義務付けることなど、金融サービスの消費者を保護するための新たな措置を導入する予定です。
開示義務の不履行等、現在審議中の法案には、証券取引法及び金融先物取引法の改正案が含まれ、主な改革案は次の2つです。
(1)証券取引所及び金融先物取引所の組織形態に株式会社の概念を導入。
(2)投資家やその他の企業関係者が企業情報を迅速かつ便利に理解できるように、企業データの電子開示を導入。

  1. 課題と問題点
    日本の金融システム改革と、現在進行中の金融市場・金融秩序の再構築が意味する重要なことのひとつは、金融業界が、能動的であれ受動的であれ、徐々に新しい競争の時代を迎えつつあるということです。同種の金融機関が得意とする同じ事業分野での比較的閉鎖的な競争から、今や金融ビジネスの伝統的な境界線に挑戦し、主権国家の領土を超越するグローバルな競争に直面しています。このような背景から、M&Aや金融持株会社の設立を通じた金融業界とその運営形態の再編は、金融システム改革の過程において、ますますポピュラーな戦略手段となりつつあります。日本最大の銀行である第一勧銀は、富士銀行、日本興業銀行とともに共同声明を発表し、銀行大手3行が合併計画を実行するために金融持株会社の形態をとる意向を表明しました。また、さくら銀行と住友銀行は、金融業界の競争力を共同で強化するため、近い将来に両行の完全統合につながる戦略的提携を結ぶことで合意しました。同時に、外資系金融機関の合併がもたらす潜在的な影響についても検討することが有益でしょう。

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金融機関も競争のために金融市場に参入しているようです。大蔵省の発表によると、2000年1月現在、日本が金融・保険分野で吸収した海外での直接投資額は、1998年の約3倍となっています。金融当局は、金融システム改革を通じて、金融イノベーションに対応・実現するための新しいタイプの戦略的投資を行い、消費者に高度で多様な金融サービスを提供することを期待しています。その結果、金融機関の業務効率と収益性が向上するでしょう。金融システム改革の包括的な実施に着手する中で、新たな発展と改善の機会を得る態勢にあることは明らかですが、国内外からの激しい競争と挑戦という困難な状況を乗り切らなければならなりません。日本政府は最近、改革の進展とその信頼回復の可能性について楽観的な見方を表明していますが、確立された改革目標を達成するにはまだ長い道のりがあります。
また、金融システム改革が21世紀の日本経済再生に不可欠な要素であることは間違いありませんが、このような包括的かつ広範な金融市場の再構築には、必然的に一定のコストと混乱が伴うことを認識することが重要です。日本政府は、金融機関が保有する相当量の問題債権を迅速に処理し、金融システムの信用を回復し、信頼を安定させ、改革の障害を取り除く一方で、さまざまな改革措置を実施するという、改革プロセスにおける重大な課題に直面しています。最近の日本の大手生命保険会社の数社の破綻は、金融秩序を安定化させるための政府の取り組みに大きな難題を突きつけており、現在進行中の金融システム改革にも予測できない悪影響を及ぼしていることは注目に値する事でしょう。
こうした動きを踏まえると、金融システム改革を急ピッチで進めつつ、金融市場の安定を極めて慎重に維持することが最重要課題であることは明らかです。金融当局は、大きな影響力を持つ野心的な改革策を実施する一方で、金融市場本来の基本的なバランスを崩したり、解体したりすることのないよう、この微妙なバランスをどう乗り切るかを検討していくことが極めて重要です。

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